東京歯科大学 口腔病態外科学講座「口腔外科手術シミュレーションとVRカンファレンスでHoloeyes XRを活用」

はじめに

東京歯科大学 口腔病態外科学講座 助教 小谷地 雅秀先生

2020年に創立130周年を迎えた東京歯科大学。 その教育・研究・診療の拠点である東京・水道橋病院は、本邦初の歯科大学附属病院として、歯科医療の進歩および国際化を目指し、企業や研究施設との連携を積極的に進めています。

その水道橋病院長のであり口腔病態外科学講座教授片倉朗先生のもと、平成29年度より文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」として、口腔外科手術支援、VRカンファレンスなどにHoloeyes XRシステムが活用されています。

 

1)手術の現場でHoloeyes XRをHoloLensで活用

東京歯科大学水道橋病院にて、顎矯正手術の支援などに使用しました。口腔外科手術は歯列矯正などの手技と、骨の3次元的な動きを患者個別に理解し、実践しなければなりません。しかし、術前シミュレーション通りにオペを施行できているか、術中に確認する方法がありません。過去に試していたプロジェクションマッピングでは、2次元的な動きの確認のみにとどまっておりました。

そこでHoloeyes XRを使い、術前のCT画像から作製した骨のポリゴンデータと、手術シミュレーションした骨切り線および理想の完成像を同時に表示し複雑な3次元的な位置関係が理解できました。術野とARマーカーを重ね合わせ、HoloLensを通して見たマーカーと一致していれば、正しく手術が行えているかが確認できました。

特に、顎骨の後方や内側を走行する血管束を可視化するとともに、注意を要する部位を確認でき、血管の位置が一目瞭然になります。これまでは、ベテランの医師でないと、血管位置の想定が困難でした。

そこで、骨のカッティングガイドのマーカーを、3次元データと組み合わせて手術中に術野上で提示する、という全く新しい取り組みができ、実際に複数の術者が同時に理解することができました。

 

 

また、術前カンファレンスにて、実際の患者の骨と手術のガイド線を空中に表示し、複数人でバーチャルオペレーションとして共有できたことも、大いに役立ちました。

特に、視野が狭く難易度が高い下顎骨形成術も、Holoeyesを活用した事前シミュレーションにより、習熟度の異なる歯科医師がそれぞれの空間認識力を向上でき、難易度の高い手術にも安心して望めるようになりました。

 

 

2) 研修医の教育にVRカンファレンスを導入

VRカンファレンスによる解剖の講義を研修医約20人に実施しました。同じ患者のCT画像を3D再構築し、従来の大学講義のように3D画像をプロジェクターで閲覧するグループと、ポリゴン化した3Dモデルをスタンドアロン型のVRヘッドセットであるOculus Questで、VRカンファレンスとして閲覧するグループに分け、解剖や手術手技を解説しました。

解説の後にそれぞれ、歯科医師国家試験と同様の筆記試験を行い、成績を比較しました。

結果、VRのグループのほうが、正答率が高かったという結果が出ました。研修医からは、「VRを使うと患者の実際の解剖の大きさや位置を、VR空間で歩き回って体験できたため、より立体的に理解できた」と声がありました。またVRを使わなかったグループの研修医からは、テスト後にVRを体験してもらうと「これなら、解けなかった問題も正解できた」という声が挙がりました。

 

 

3)歯科・口腔外科領域へのHoloeyes導入のニーズと展望

東京歯科大学水道橋病院の口腔外科ではこれまで FabLab TDC (Fabrication Laboratory Tokyo Dental College)にて、実体模型や3Dデバイスの作製・ 開発・臨床応用を行っています。そこで、3D模型以外にコストがかからず、別のデバイスを必要としない新しい方法を模索していました。

欧米では3Dシミュレーションやナビゲーショ ンシステムが様々な手術に応用されていますが、みな平面的なモニターの中で閲覧するものばかりで、空間的に理解しやすいものは少ないのです。シミュレーションソフトも非常に高価で導入が困難である、と困っている時に、Holoeyesに出会いました。

最近の国際的な口腔外科の学会では、バーチャルオペレーションは一般的になってきており、口腔外科は保険導入が可能であったり、3Dソフトの販売業者も多いため、Holoeyesのシステムの導入により、研修歯科医や学生が実践的な教育を通じて、患者の高いニーズに充分に応えられる、専門的な診療を学べる環境にも最適といえると思います。

 

 

※HoloLensおよびMagic Leap One版Holoeyesアプリケーションは2020年4月現在、薬機法未承認です。この記事の事例は、ヘルシンキ宣言,文部科学省・厚生労働省が定める「人を対象とする医学 系研究に関する倫理指針」等の倫理指針、ならびに関係する法令等を遵守し、施設倫理委員会承認のもと施設の規則に則ったうえで十分な同意(IC)を得て特定臨床研究として行っています。

参考:

1.東京歯科大学 倫理審査委員会 承認番号 794

研究課題「3Dモデルデバイス(カッティングガイド・ジグ)の口腔外科領域手術への応用」

東京歯科大学 口腔病態外科学講座片倉朗 教授

承認日: 2018.07.10

 

2.東京歯科大学 倫理審査委員会 承認番号 781

研究課題「Projection Mapping等による口腔外科手術支援システムの構築」

東京歯科大学 解剖学講座 松永智 准教授

承認日: 2017. 04.18

 

3.東京歯科大学 倫理審査委員会 承認番号 844

研究課題「ヴァーチャル・リアリティ(VR)を用いた顎矯正手術の安全性と精度検証」

東京歯科大学口腔病態外科学講座片倉朗 教授

承認日: 2017.03.13

 

 

論文発表

Koyachi M, Sugahara K,  Katakura A, et al. Clinical study of pediatric patients with oral and maxillofacial trauma in our hospital in the during 2 years. Oral Science in Japan 2017, 43-44, 2018

片倉朗、菅原圭亮、ら, 「顎骨疾患プロジェクトから の情報発信」デジタルファブリケーションが変える歯科医療~基礎と臨床の架け橋ファブラボ TDC、歯科学報 118(5): 369-376、2018

片倉朗、松永智、菅原圭亮、ら.デジタルファブリケーショ ンが変える歯科医療~基礎と臨床の架け橋ファブラボ TDC~、歯科学報, 117:271-279, 2018.

菅原圭亮, 片倉朗. 口腔顎顔面領域におけるデジタルファブリケーション : 3Dプリンタ・Mixed Reality技術の応用. 日本歯科医師会雑誌 72(9), 757-765, 2019

吉田 秀児, 菅原 圭亮, 片倉朗, ら歯学部学生による下顎骨3D造形モデルを用いた下顎枝矢状分割法の体験学習

歯科学報 The journal of the Tokyo Dental College Society 118(5), 385-388, 2018.

 

 

学会発表

Koyachi M, Sugahara K, KatakuraA, et al. Technical report of Le Fort I osteotomy using Microsoft HoloLens and 3D devices. 57th KAMPRS (The 57th Congress of Korean Association of Maxillofacial Plastic and Reconstructive Surgeons) October 2018 – Cheongju, Korea

Koyachi M, Sugahara K, Katakura A, et al. Technical report of Le Fort I osteotomy using Microsoft HoloLens and 3D devices. 24th Congress of the European Association for Cranio Maxillo Facial Surgery, September 2018 – Munich – Germany

Odaka K, Koyachi M, Sugahara K, Katakura A, et al, Application of novel techniques to transfer the position designed at virtual operation by assembling additive manufactured devices in Le Fort I osteotomy. 24th Congress of the European Association for Cranio Maxillo Facial Surgery, September 2018 – Munich – Germany

小谷地雅秀, 菅原圭亮, 片倉朗ら. Microsoft HoloLens とカッティングガイド・ジグデバイスを用いたLe Fort  I 型骨切り術. 第63回口腔外科学会総会、2018年11月、千葉

菅原圭亮:Le Fort I 型骨切り術での上顎骨の位置決め 3D ジグ・VR を用いた精度向上、第63回口腔外科学会総会、2018 年 11 月、千葉

小谷地雅秀, 菅原圭亮, 片倉朗, ら. Microsoft HoloLensを用いてVR手術支援を行った上顎良性腫瘍切除術、第72回口腔科学会学術集会、2018年5月、名古屋

 

 

学会賞受賞;

Best Paper Award:  Korean Association of Maxillofacial Plastic and Reconstructive Surgeons 2019

Sugahara K, Koyachi M, Katakura A, et al. Novel condylar repositioning method for 3D-printed models. Maxillofac Plast Reconstr Surg 40(1)4, 2018